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2009年10月30日 (金)

ギリギリのやさしさ

8歳のシーズーを引き取ってくれないかという相談電話がありました。

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「もしもし、あのぉ、犬の貰い手探しをしている方ですよね?」

「はい、そうですが」

「犬を引き取ってもらえませんか?」

「どんな犬なんですか?」

「シーズーです。メスで8歳です」

「事情をお話くださいますか?」

「離婚した元旦那が8年前にオスとメスのペアで仔犬を買ってきたんです。子どもを産ませたらお金になるからって。けっきょく子どもは産ませなかったんですけどね。その後いろいろあって離婚して、元旦那は犬たちを置いて出ていきました。私は別に犬は好きじゃないんだけどしかたないから世話はしていました。今年の春、オスのほうが心臓病で死んで、メスだけになりました。で、再婚することになって、犬を連れていくわけにはいかなくて」

「再婚相手の方、犬は嫌いなんですか?」

「いえ、連れてこいって言ってます。でも私がいやなんです、元の旦那が買ってきた犬を新しい生活に連れていくのは」

「事情はあるでしょうが、8歳になっていると貰ってくれる人を見つけるのは大変ですよ」

「やはり、そうですか・・・」

「健康ですか? 避妊手術やワクチンや狂犬病の注射やフィラリアの予防はしていますか?」

「いいえ、なんにも」

「決まったトイレは使えますか?」

「いえ、おしっこやうんちは外でしています。ドアを開けてやると出ていって自分で好きなところでしているみたいです」

「しているみたいってことは、いっしょについていかないんですか?」

「ええ、済んだら帰ってきます」

「道に出たりしないんですか?」

「出てもすぐに帰ってきます」

「危なくないんですか? 車とか」

「そんなに車は多くないですから。帰ってきたらお尻と足を拭いてから家に入れます。そのままだと汚いから」

「なついていますか?」

「元旦那にはなついていたけれど私にはそんなに・・・。私が寝ていると布団に乗ってきますが、たまに顔をくっつけようとするといやがって離れていきます」

「食べ物は何を?」

「朝はドッグフード。夜は私のごはんから分けていろんなものを。リンゴが好きでたくさん食べます」

「犬にリンゴはあまりよくないですよ」

「え? 毎日たくさん食べてました。今日からやめます」

「人間の食べ物を分け与える生活が長いし、なにも病気の予防をしていないし、同じ生活をしていたオスのほうが今年死んだってことは、そのメスもそんなに長生きはしないと思います。あとほんの何年かだけと考えたら再婚生活に連れていってもいいんじゃないですか? 相手の方もいいよと言っているんだし」

「なんかすごくいやなんです、今までの生活を引きずって再婚するのが」

「新しくスタートしたいっていうのはわかるけど、家具を一新したり、部屋を模様替えしたりとは違うでしょ。犬は生き物なんだから」

「だから困っているんです。知り合いに貰ってくれる人はいないし。保健所に連れていったんです今日。そしたら、もう一度よく考えてって言われて帰ってきました」

「保健所に渡すとどうなるか知っていますか?」

「殺すんでしょ?」

「どんなふうにか、知っていますか?」

「ガスとかなんとか聞きました。苦しむんですか?」

「苦しみます」

「死んだあとは1匹ずつのお墓に入れてくれるんですか?」

「お墓なんてないです。1匹ずつ殺すわけでもないし、1匹ずつ供養するわけでもないです。まとめて殺して、まとめて焼いて、あとはゴミです」

「ゴミですかぁ・・・」

「8年間いっしょに暮らして、別にベタベタ甘える犬でもない、トイレも勝手に済ませるならそんなに手間のかかる犬でもない、再婚相手もいいよと言っている・・・連れていったらどうです?」

「どう考えてもいやなんです。貰い手がないなら保健所にやるしかないですかねぇ」

「再婚生活に邪魔だから犬を保健所にやったと相手の男性が聞いたら、どう思うでしょうね。そんなひどいことをする女なのかと気持ちが冷めるんじゃないですか? あなたの人間性に疑問をもちますよ。こんなことを言ってはなんですけど、再婚してもまたいつか破綻しますよ」

「相手には貰い手が見つかったって言おうかしら」

「ウソをつくの?」

「ウソはつきたくないけど」

「保健所にやった後悔と、彼にウソをついた後悔と、そんな後悔を抱えて再婚しても幸せにはなれないでしょ」

「そうですけど・・・じゃ、どうしたらいいんでしょう」

「連れてきていいと言っている彼と犬のこと話し合ってください。あなた一人の問題じゃなくて、新生活の問題なんだから。犬なんか連れてくるなっていう彼ならあなた一人の責任と覚悟で犬を保健所にやってもいいけど、彼は犬を連れてこいって言ってる。彼の意見を聞いてみるべきですよ」

「そうですねぇ・・・。話し合ってみます」

「私が思ったこと言っていいですか?」

「はい」

「あなたの話を聞いて、最初は腹が立ちました。なんて身勝手なんだろうって。自分さえ幸せになればいい、そのためには犬が邪魔だっていう言葉にとっても腹が立ちました」

「そうですよねぇ」

「でもね、途中から変わりました。犬がかわいそうじゃなくて、あなたがかわいそう」

「え?」

「あなたは馬鹿みたいに正直。自分の幸せのためには犬はいらないって平気で言ってしまえる。それ、ものすごく本音だと思う。初めてお話する私に対して、包み隠さず本音を言っている。犬に対してもきっと正直なんだと思う。おまえなんか邪魔だ、おまえなんか死んでもいいって。ひどい飼い主ですよね。でも、殺すことに悩んでいる。悩んだりせず平気で保健所に渡す人もたくさんいるのに」

「平気で保健所に渡す人、たくさんいるんですか?」

「いますよ。悩むことも迷うこともなく平然と保健所に連れていく人」

「そうなんですかぁ」

「それを受け取らなければならない保健所の人の気持ち、考えてください」

「いやな仕事ですよね」

「保健所の人にいやな仕事はさせないでほしいです。こんないやな仕事は1匹でも減らしてあげてほしいです。もし彼と話し合ってやっぱり処分だとなったら、保健所じゃなく、どこか薬で死なせる動物病院を見つけて、あなたの目の前で死なせてください。それが8年間飼った者の責任の取り方です」

「そういうことをしてくれる病院もあるんですか?」

「今はなかなかないですけど、探せばあります」

「探してみようかなぁ」

「あなたは犬をどう処分するかばっかり考えている。犬に対しての愛情はまったくない。もしあなたに飼い続けられても犬は幸せじゃないと思う。でも、再婚相手によってもしかしたらあなたは変わるかもしれない。あなたがかわいがらなくても彼が犬をかわいがるかもしれない」

「ん~、どうかなぁ。やさしい人ですけど」

「やさしい彼なら、なおさら。犬を始末して身軽になってやってくるあなたをどう思うでしょう。そうか、すっきりしてよかったな、と言う人に一生ついていけますか? あなた」

「・ ・ ・ ・ ・ ・」

「少なくとも、犬を処分することを最後の決断ギリギリのところで悩んでいるあなたは、平気で犬を保健所にやる人よりずっとやさしい人。そのやさしさを失わないでほしい。そのやさしさを失ったらあなたダメになっちゃいますよ。そのやさしささえあれば、どんなに苦労したとしてもあなたは幸せになれるから」

「そんなふうに言ってもらえると、なんだかうれしいです」

「一人で悩まないで。彼と相談して。またその結果を私に相談して」

「はい、わかりました」

「犬を殺すのは簡単。でも、それをしたら一生あなたの心の傷になるから。これから再婚して幸せになろうっていうのに、そんな傷をもってっちゃいけない」

「そうですね・・・・・・。ありがとうございます。なんというか・・・なんだかすごく気持ちが変わりました」

「じゃ、彼と話し合ったあと、必ずまた電話くださいね、必ずですよ」

「はい。また電話します。ありがとうございました」

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電話していたのは20分間くらい。細かいやり取りは省略しましたが、会話の内容をほぼ忠実に書きました。

みなさんはこれを読んでどう思うでしょうか。

犬を保健所にやるのは簡単。犬を私が引き取るのも簡単。知りません勝手にしなさいと言って電話を切るのも簡単。

でも、簡単に終わらせたくはないと思いました。犬1匹の命がそんなに軽いものじゃないってこと、この人にわかってほしいから。

愛してくれない人に飼われて犬は不幸です。

でも、この人の心にギリギリのやさしさがあるのは犬のおかげ。

それだけでこの犬が生まれてきた意味と8年間飼われた重みがあります。

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コメント

何か色々考えさせられる内容です。ワンコやニャンの命は、私たち人間の物なのでしょうか・・・。私たち人間の気持ち一つで、殺されてしまう命が沢山すぎる位ある現実。もう少しだけ考えましよう、私たち人間。このシーズーのワンコが幸せになれる事を祈つています。

投稿: ぼす&カノン | 2009年11月 1日 (日) 19時38分

あ~涙出てきた…

だけど悩んで電話してくれてほんと良かったよね。
この電話で彼女もワンコも良い方向へ向かう事を心から願ってます。

あたしは離婚した時もワンコ連れて家を出て、再婚の時もワンコ連れての再婚。
ぶっちゃけワンコがどぉのこぉ~の思った事がなかったなぁ。
もれなくあたしについてくるものだと…。

深く考えられたこの方は良い方だわ。うん。

良い未来を祈ってます。

投稿: acochi | 2009年10月30日 (金) 16時23分

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